連載小説
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突然の、悲しい来客。
 「とりあえず、朝飯にするか?」アグネシュカと恵美ちゃんは2人仲良く台所でハムエッグを作りながらトーストを焼いていた。「轟、別に急がないんだろ?ま、ゆっくりしてけば。」
 4人はゴロゴロしながらテレビを見、かったるい午後を過ごしていた時、私の携帯電話が突然鳴った。
 「もしもし・・・あたしー。」「え〜誰?」「分からない?依子よ。」ま、まずい!「今どこにいるの?」「京都よ。」「なんでぇ?」「山さんに会いに来たの、よかった!連絡取れて。」
 困った顔の私を見、轟が小さな声で誰からか聞いた。「依子だよ、あの!」実は彼との兄弟?の2番目は依子を介してだったのである。
 「実は今、偶然にもここに轟がいるんだよ。」「ええ〜!とどさんが!」「なら、なおさら会いたいよ!」「ちょっと待ってね。」
 「どうする轟?」「今更どーって事ないし、せっかく来たんだから会ってみる?」駅から電話してきた依子は10分後にマンションに現れた。
 「ピンポ〜ン」ドアを開けるとそこに立っていたのは初老のおばあさんだった。「依?」「そうよ。」「ま、とりあえず入って。」
 「山さん、久しぶりー。」依子と最初に会ったのは60年程前で、その後2−3回池袋で飲んでから約30年ぶりだった。轟にとっては半世紀ぶりだろう。
 「ごめんなさい、お客さんだったの?」「いや、僕たちそれぞれの彼女だよ!」「あ、そうなんだ。」と言う依子の顔は、一気に悲しい表情へと変わっていった。
 聞けば彼女は、今78才で末期ガンらしい。1人住まいの彼女は延命する意思もなく、最後に京都に突然行きたくなったそうだ。「しかし、今の僕たちには何もして揚げられないし・・・」
 「ごめんね!やっぱ帰るわ!お邪魔しましたー。」と言うなり強がりな依子は、バタンとドアを閉め急いで出て行った。
 ここで追いかけて慰めても何の解決にもならないし、私にはそれより大事なアグネシュカが今ここにいるのだ!
 何かとても人生の不平等さを感じたが、私達はこのまま神様の筋書きをまっとうするしかないのだ。
 しらけたムードになってしまったが、ここはまたまた飲むしかない。「アグネシュカ、ビール持って来たくれる?グラス4つね。」
 暫くしても盛り上がらない場の雰囲気は、眠気を誘った。「轟、寝るか?」「そーすねっ。」
 ドアを閉めてお互い彼女達と横になったとたん、どちらからも激しいキスの嵐とベットがきしむ音がした。恵美ちゃんもアグネシュカも、とっくの昔の事なのに激しくやきもちを焼いていたのだった。「昔のことでしょ!」「ごめんね!」「あ〜。」
 むろん2人共、この夜は「愛してる!」の連発だったのは言うまでもない。
10/11/14 20:56更新 / アンバー
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■作者メッセージ
頑張って生きてね!依子。

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