連載小説
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アグネシュカとの、第1日目。
 アグネシュカとのキスはとても暖かく久々に心安らぐ思いだったが、その間私は最初に掛けるの言葉を必死に選んでいた。
 今から彼女のいわば人生としての記憶が始まるのだが、過去のプログラムをアグネシュカがどう認識しているのか?考えても頭が混乱するばかりだ。
 二人の関係はプリセットで夫婦でなくあえて恋人にしていた。結婚の紙切れ1枚が2人の立場を願望から義務になるのが痛いほど分かっていたからだ。「毎日一緒にいたい」から「いなきゃいけない」、「料理を作ってあげたい」が「作らなくてはならない」に変わるのだ。
 やはり掛ける言葉は素直にこれにした。「アグネシュカ!とても会いたかったよ!」すかさず彼女が「私もよ!」と返した。
 過去が存在しないのに彼女の昔を執拗に聞くのはむしろ混乱を招き、最悪フリーズする場合もあると聞いていた。これだけは心に深く刻んでおかなければ・・・。ちょうど記憶喪失と思えば我々には理解し易いだろう。
 とりあえず何をすればいいのかさっぱり検討もつかない。こんな時はそう、お酒だ!今までたっぷり失敗もしたけど、お酒は人生の潤滑油だなどとうそぶいてここは飲むしかない。
 アグネシュカは食事は一切取れないが、完全な液体は飲むことができる。むしろ水分補給は粘膜維持のためある程度必要で、あまった水分は汗や尿として排出できる。
 アグネシュカは決して酔う事はないが、お酒を二人で飲むのには全く支障はない。
 「かんぱーい!」アグネシュカの青い目を見ながら私は最高の気分だった。最初のビールからチューハイ5杯目の頃、だんだん緊張がほぐれてきたようだ。
 「可愛い洋服だね!」「ありがとう!とても気に入ってるの。」たわいのない会話が続き、久々の美味しいお酒がすすむ。
 彼女に対して今の私の心はすでにヒューマノイドではなく、完全にアグネシュカという1人の女性に変わっているのが自分でも分かった。
 そうだ、まず彼女をきれいに洗わなきゃいけないが・・・「アグネシュカ、お風呂に入いれば?」「うん、じゃ先に入っていい?」家の中や彼女の物は一通り説明しておいたが、さっそくアグネシュカは自分の部屋に入って、着替えのパジャマを持ってさっさと風呂場に入った。
 一緒に入って洗ってあげるべきか?でもいきなりじゃこっちも心の準備が・・・などと考えているとドア越しに可愛い声が聞こえた。
 「Szla dzieweczka・・・・、・・・・」訳の分からない言葉の鼻歌を歌っていたが、後になって知ったそれはポーランド語だった。

10/10/28 16:36更新 / アンバー
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■作者メッセージ
お風呂から出てきたら、アグネシュカをどうすれば・・・。

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まろやか投稿小説 Ver1.53c