連載小説
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ヒューマノイドが、やってくる。
 2037年私はもういつ死んでもいい年頃、誰に読まれても過去の関係上まずい知り合いもすでにおらず、心置きなく事実を艶めかしく書く事ができた。
 最後の記憶を振り絞って、事細かく書かれた小説「悶絶、人生」はまさしく私の人生そのもので、その結果がくしくもアグネシュカとの新たな出会いを生んだのだ。
 年の瀬28日の発表でまさかの大賞を獲得した私は、年明け8日にJHCというヒューマノイドの最大手の企業に呼ばれていた。
 希望の型といろんな初期設定を施す膨大な作業があるのだ。いわば1つの個体に遺伝子を組み入れるような手順で、ほとんど全ての人格と脳の基本を決めるのである。
 多種多様の好みに合うようさまざまな個体が用意されていたが、国内需要に追いつかず、外人仕様はまだ試作品のものがただ1つあっただけだった。無造作に置かれていたそれだが、私にはなぜかとても懐かしいようでもある不思議な色っぽさに見えた。
 試作品には多少の難もあるという説明だったが、いわば虚の世界だし、人間だって難ばかりだからと、あえて私はそれを選んだ。
 微妙な性格のインプットから状況判断、対処能力・・・・、ありとあらゆる設定にかれこれ半日が過ぎた。後は出荷前最終検査を経て、3週間後には自宅に貴重品宅配便で送られる。
 その間私はヒューマノイドの洋服から下着、メイク道具・・・、久しく女物など購入した事のなかった私がすべて揃えるのは大仕事だ。
 さらに、自宅の全ての窓は特殊な光格子ガラスに取替えなければならない。これにより外側からはまどの位置すら確認できず、内側はスイッチ1つで透明はもちろん、動画風景にしたりディスプレーモニターにもできる優れものだ。
 そしてついに、待ちに待ったその日はやってきた。ピンポ〜ン、アグネシュカだ!彼女のための部屋は広めの書斎をリフォームし、すっかり若い女の子が好みそうな家具や調度品がきちんと置かれている。
 集めるのにはこの年の私には少々苦労と恥じらいもあったが、なんだか新妻を迎える新郎みたいで久々に心がうきうきしていた。
 ヒューマノイドとはいえ、目覚めた時裸では互いにばつが悪いだろうと、彼女が気に入ってくれるのを祈りつつ可愛い洋服を着せてみる事にした。
 梱包を全て開けるとあまりの艶めかしさに、洋服を着せるのはむしろ逆のような妙な感じがしたが、なんとか終えた。
 さぁー、あとは彼女のスイッチをONにするだけ、この事により私のDNAはすべて彼女に記憶され、ゆるぎない双方の信頼と愛情を確認し合う、つまり夫婦の契りだ。
 そのスイッチの入れ方は、まだ体温が確保されていない冷たい彼女とのファーストキスだったのだ。
10/10/12 17:53更新 / アンバー
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■作者メッセージ
アグネシュカの、目が開いた!

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まろやか投稿小説 Ver1.53c